都市研コラム

めんどくさい

 世の中では、時短と省手間が進み、便利な商品やサービスが続々と登場しています。でも、「手間を省こう」「時間を節約しよう」とやっていること自体がめんどくさいことだったり、かつては便利だったことが「めんどくさい」に変化したりすることがあります。


 日本人の主食、ごはんについて「めんどくさい」を考えてみます。


 ごはんを電子レンジで温めて食べる、よく耳にする話です。都市生活研究所が調査した電子レンジの用途では、約9割の方が「冷めたご飯を温める」、約8割の方が「冷凍したご飯を温める」と回答しています。昨今、私たちの主食「ごはん」は、炊飯器のみならず、電子レンジとも深い関係を持っていることがうかがえます。


 そんなご時世ですが、私は電子レンジと炊飯器を持っていません。理由は「めんどくさいから」です。以前はどちらも台所にありました。でも、めんどくさかったのです。ラップをかけたり、加熱ムラのないように並べたり、何よりも、ごはんを冷凍することがものすごくめんどくさい。ごはんが熱いうちにラップに平らに包んで、さらにポリ袋に入れて、冷まして、冷凍庫に入れて、食べるときは冷凍庫から出して、レンジで加熱して、ラップをとって、ラップをゴミ箱に捨てて・・・ああ、めんどくさい。炊飯器は、とにかく炊き上がるまでの時間がかかるし、とある夏の日にお米を研いだことを忘れて旅行に出てしまったらドブロクみたいなものができていたし・・・ああ、めんどくさい。電子レンジも炊飯器も置き場所をとるから台所が片付かない、ああもう、めんどくさい。


 というわけで、その数年後、電子レンジと炊飯器がほぼ同時に寿命をまっとうしたのを機に、それらを持つことをやめました。それから10年、ずっと鍋でごはんを炊いています。土鍋も良いですが私は南部鉄器のごはん鍋が気に入っています。慣れてしまえば、おこげも自由自在ですし、鍋での炊飯時間は3合で15分もかからないので、食事のたびに炊いても苦にならず、いつも炊きたてです。ごはんが残っても、めんどくさいので冷凍しません。おにぎりにするのもめんどくさいので、塩だけつけて軽く丸めておいています。これが意外と使い勝手が良く、おやつにそのまま、雑炊にドリアにお弁当にと、すぐに食べきってしまいます。そして、スペースに余裕ができた台所は、特にがんばらなくても、何となく片付いて見えるようになりました。


 私にとって、電子機器やラップと格闘する数十秒はおそろしくめんどくさい。でも、火を見ながら調理をすることや少し余計に時間がかかることは、ひとつもめんどくさくなかったのです。


 ここに、全国消費実態調査(総務省)のデータがあります。それによれば、二人以上の世帯における平成21年の家庭用耐久財の普及率は、電子レンジ、冷蔵庫、電気掃除機、洗濯機とも100%近い高い値を示していて、それらは5年前の平成16年とほぼ変っていません。


二人以上の世帯における普及率(%)

 そのなかで、自動炊飯器の普及率が平成16年の85.5%から平成21の82.8%と微減傾向を見せています。鍋でごはんを炊くようになったり、一方では、自宅でごはんを炊くこと自体をやめてしまったりといったことが、要因として考えられるでしょう。


 世の中の多くの人にとって、ごはんを炊くことは、とっくに「めんどくさいこと」になっているのかもしれません。遠くない未来に「昔はね、みんな自分でお米を研いで、家でごはんを炊いていたんだよ」と語られる時代が来てしまうのでしょうか。少しさびしい気もします。


 とはいえ「めんどくさい」は人それぞれ。どんなに便利になっても、どんなに快適になっても、めんどくさいはなくならない。
 でも、「めんどくさい」は、ある意味で世の中を変えていく強い原動力なのかもしれないと私は考えています。

菅原 ひろみ