人口減少社会を迎えるなかで、自由になるお金が多い人たち、いわゆる富裕層と呼ばれる人たちに、自社の高価格商品を売りたいと力をいれはじめる企業が増えてきた。富裕層は優良顧客であると同時に、イノベーター的存在として、その他の消費者への波及力が大きいことも影響していると思われる。現在、富裕層むけのビジネスが話題になっていることには、このような背景がある。
そうなると、知りたくなるのは富裕層ならではのニーズや価値観である。自由に使えるお金が多い人は、何に価値をおいてお金を使うのだろうか。年収2000万円以上の富裕層に対する調査から、消費実態や消費キーワードをみてみよう。
最も多いのは、計画堅実消費派(34%)である。計画的にお金を使い、食費に最もお金を使っている。自分のこだわりのための消費は行わない。その一方で、こだわりにお金を消費する富裕層もいる。金銭的ゆとりを実感していて、かつ、自分基準でお金を使う「ゆとりこだわり派(19%)」と「自分基準」と「他人からの目」を気にしてお金を使う「欲張りこだわり派(18%)」の2タイプが該当する。加えて、他人からどう思われるかのみを気にして消費を行なう「見栄消費派(13%)」や、こだわりや見栄、計画性といった基準をまったく持たない「何に使ったかわからない派(17%)」も存在する。
こうしてみてくると、お金を持っていることが、富裕層全体の特徴を示すとは必ずしもいえない。また、他の調査結果からは、使えるお金に差はあっても、実現したいことは、大きくはかわらないこともわかっている。富裕層とそうでない人のニーズや価値観には大きな差はないといえよう。
しかし、これらの調査結果をみて、「(富裕層なのに)こだわりにお金を使わないわけはない」「こだわりを持っていないわけはない」と感想を持つ人は、実際に少なくはない。「お金に余裕のある人ならばこだわりにお金を使える」「お金を持っている人は特殊な生活を送っているはずだ」という仮説を捨てることができず、データが語っている真実の部分を信じようとしないのだ。
このような「お金があったら○○したい」という自分の「夢」を押し付けているだけでは、富裕層ビジネスで成功する鍵はみえてこない。ライフスタイルが多様化しているといわれて久しいが、富裕層のライフスタイルも当然のことながら多様化している。富裕層に対する色メガネをはずしてこそ、富裕層の本来の姿がみえてくるのではないか。