暑く、楽しかった夏も終わり、そろそろ秋の気配を感じる季節となってきました。
この季節に楽しみにしているイベントの一つに「東京国際映画祭」があります。 この映画祭は、今回で19回目を迎えるもので、今年は10月21日~29日までの9日間、 六本木ヒルズや 、Bunkamura をメイン会場に、都内の各劇場及び施設・ホールを使用して開催されます。
オープニング作品として、クリント・イーストウッド監督による第二次大戦中の硫黄島での戦いを題材にした「父親たちの星条旗」が、クロージング作品として、市川崑監督による横溝正史原作の傑作推理小説を卓越した映像美で描く「犬神家の一族」など、たくさんの作品が上映されます。
今年もどんなすばらしい映画に出会えるのか楽しみです。
ところで、みなさんは「あなたの好きな映画は?」と聞かれたらなんと答えますか?
わたしは、その一つとしてウィリアム・ワイラー監督による『ローマの休日』をあげます。
この作品との出会いは、中学生か高校生の時に、父がビデオで買ってきたのを一緒に観たときでした。
子供ながらに、アン王女(オードリー・ヘプバーン)と、新聞記者ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)の楽しく、それでいて淡く切ない恋に何とも言えない感慨を覚えたものです。ジョーの同僚でカメラマンのアービング・ラドビッチ(エディ・アルバート)の友情にも心打たれました。
後年、父から「ウィリアム・ワイラーは普段は、シリアス映画を得意としていたんだよ」と聞かされ、この作品の奥の深さ、人の表と裏のようなものを考えさせられたものです。
この作品で、特に好きなのはラストのアン王女とジョーの記者会見での別れのシーンです。
会見に臨むアン王女は、大勢の報道関係者の一人としてのジョーと向かい合います。2人の視線でのやりとりが何とも切なく、そしてこの上ない暖かさを感じさせてくれます。ラドビッチから、パーティー会場での乱闘騒ぎの際の記録をはじめとする、ローマでの貴重な一日をつづった写真の数々を手渡された王女は大切にそれをしまいます。 いよいよ、記者会見も終わり、 そして、アン王女が奥の間へ消えていったあとも、ジョーはその場に一人たたずんでいます。
???わずかに想いをはせた後、一人になった彼は、広いパレスの中に自らの足音を響かせながら立ち去っていくのです。
今まで、アップでとっていた画面がここで、いっきにひいていき、その回廊の長さや天井の高さをしっかりと映し出し、空間の広さを感じさせてくれます。この長く広い回廊が王女と一般人の身分の差を連想させ、寂しくなるのですが、その中で、ジョーの表情はどこか爽やかで"心地よさ"を感じさせてくれました。
この映画ついては、観るたびに新たな発見をし、新しい印象を得るのですが、最近は仕事柄、空調設備のことを考えることが多いこともあり、この感動のシーンに対しても「こんなに天井の高い、バカでかい空間をどうやって空調しているのだろうか」などと下世話なことを考えてしまいます。
欧米で、ホールやビルなど大空間に本格的な空調設備が導入されたのが、1950~60年代であることを考えると、こうした大規模空間で本格的な空調を行えるようになったことはつい最近のことと言ってよいのではないでしょうか。
昨今、こうした大空間に対する空調方式の一つとして、タスク・アンビエント空調というものが注目されています。
タスク・アンビエント空調とは、人のいることの多い場所などのタスク域では温熱的にも空気質的にもきめ細かい設定を行ない、未使用空間(天井付近等)や通過のための空間(廊下等)のアンビエント域では反対に穏やかな設定を行なう、パーソナル空調的要素を持った空調方式です。タスク域とアンビエント域に対して効率的な制御を行なうことにより、全館空調をするよりエネルギー投入量を削減し、温熱環境や気流に関する各個人の好みに対してきめ細かな対応が可能になることから、この空調方式は、環境に配慮しつつ、自分に合った"心地よい"環境を得ることができます。
このタスク・アンビエント空調を実証もかねて導入するなど、今後ともよりよい製品・サービスをお客さまに提供すべく、この9月に開所したのが、弊社の横浜研究所です。
社会の変化がめまぐるしく、いよいよ複雑さを増してくる中で、"ままならない"ことも多いですが、それだから故に、『ローマの休日」のようないつまでも色褪せることのない"心地よさ"は、かけがえのないものに思えてきます。
わたしたちも、みなさんにこうした"心地よさ"を伝えていけるように、この新しい研究所で日夜努力していきたいものです。
『ローマの休日(製作50周年デジタル・ニューマスター版)』を観ながら
2006年10月
※映画『ローマの休日』の中で、ジョーがアン王女に言った言葉。