日本では箱ブランコに挟まれ死亡あるいは重傷を負った事故が相次いで起こっていた事実が報道されて以降、設置者による自主的な撤去がすすんでいる。そして、このことは箱ブランコに限らず、多くの別の遊具にも波及している。
遊具を撤去してしまうことの問題のひとつは、子どもの遊び場がなくなってしまうことである。国土交通省の『都市公園における遊具の安全確保に関する指針』では、子どもと遊びの重要性について「子どもは、遊びを通して自らの限界に挑戦し、身体的、精神的、社会的な面などが成長するものであり、また、集団の遊びの中での自分の役割を確認するなどのほか、遊びを通して、自らの創造性や主体性を向上させてゆくものと考えられる。」とすべての子どもの成長にとって、遊びは必要不可欠なものとある。
また「遊具は、冒険や挑戦、社会的な遊びの機会を提供し、子どもの遊びを促進させる。子どもが冒険や挑戦のできる遊具は、子どもにとって魅力的であるばかりかその成長に役立つものでもある。」と、子どもの遊びにとって遊具が重要な役割を担っていることが書かれている。
遊具を撤去してしまうことのもうひとつの問題は、それが問題の解決にならないからである。問題の原因を分析することなく、ただ単に遊具を撤去してしまうだけでは、本質的な問題解決にはならない。なぜならば、同様の問題を含んだ別の遊具や製品が再び世に出てきて、違った形だが同類の事故を発生させてしまうからだ。
以上のことから、死亡や重傷につながるハザード要因を見極め取り除いた上で、子どもの成長発達に必要な遊具を残すという考え方が出てくる。しかし、それだけでは十分ではない。前述の国土交通省の指針では「子どもは、さまざまな遊び方を思いつくものであり、遊具を本来の目的とは異なる遊びに用いることもある。」と、書かれている。つまり、遊具だけでなく、遊ぶ当事者である子どもたちも、遊具を正しく使って安全に遊ぶよう心がけることが必要なのである。
◎柏市立花野井小学校での取り組みが始まった。
全国で遊具の撤去が進む中、上記のような考えに基づき、遊具を残す決断をした学校がある。千葉県柏市の公立小学校:柏市立花野井小学校である。
花野井小には、30年前の学校設立時にPTAが寄贈した遊具が、今も残っている。公園や学校での遊具の事故が相次ぐなか、保護者や先生から不安の声があがり、遊具メーカーへ相談したところ大規模な改修をすすめられた。莫大な改修費がかかることから、一時は撤去という選択肢も検討にあがった。しかし、卒業生の思い出がいっぱいつまった、そして今でも子どもたちに大人気の遊具を、危ないからといって撤去して済ませてしまって本当によいのか?との議論の末、ハザードは取り除いた上で遊具を残すことにした。
そして、遊ぶ当事者である子どもたち自身が、自分たちで安全な遊び方を考えて、注意して遊具で遊ぶようになるよう、授業や課外活動での取り組みを2008年3月からスタートさせたところである。
(つづく)