日本人は世界一お風呂好きと言われている。温泉人気は言うまでも無いが、家庭での入浴頻度も高い。例えば、「毎日浴槽に浸かっている」人の割合は、アメリカでは10人に1人だが、日本では夏でも3人に1人以上、冬なら2人に1人である。近年は省エネ志向が高まっているが、「冷暖房の設定温度を弱める」といった省エネ行動は増えても、「浴槽に湯をためるのをやめてシャワーに切り替える」という人は少ない。むしろ、ここ数年で「夏場でも必ず浴槽に浸かる」という人が若い世代を中心に増加しているくらいである。また浴槽メーカーの話によれば、浴槽のサイズも増大傾向にあるという。なぜ日本人はこのようにお風呂好きなのだろうか。入浴に何が求められているかについてアンケート調査を行ったところ、次のような結果が得られた。
冬の入浴に求められる効果 ベスト3 | 夏に入浴に求められる効果 ベスト3 |
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1.体が温まる(89%) 2.体の疲れが取れる(80%) 3.気分がリラックスできる(65%) | 1.体の汚れが落とせる(74%) 2.体の疲れが取れる(63%) 3.気分がリラックスできる(52%) |
夏が高温多湿である、熱帯地域や日本などにおいては、入浴の「体の汚れを落とす」効果は衛生的な生活をするために重要である。従ってこれらの地域では、古来から川や井戸を含め、体を洗う場が重視された他、薬草を蒸した蒸気風呂も怪我や病気の治療に活用されてきた。つまり日本人が欧米人よりも入浴にこだわる理由のひとつは夏季の気候ゆえである。しかし、現代生活ならシャワーだけでも体の汚れは充分に落とせる。熱帯地域でも欧米でも、現代はシャワーのみの入浴が中心であるのに、日本では浴槽入浴が好まれているのはなぜだろうか。
日本が「水や燃料に恵まれていた」ことや、「温泉が多かった」ことなど諸説があるが、一番の理由は、アンケート結果でも入浴に求められている「体の疲れが取れ」、「温まる」効能が、浴槽入浴で大いに得られるからだろう。
お湯に浸かると、お湯の「温度」とお湯の中の「静水圧」によるマッサージ効果で、血行がよくなる。またお湯の中には「浮力」もあって、体重を支える筋負担が軽減されるため、体がほぐれて血行はさらによくなる。
血行がよくなると、血液が細胞に栄養分などを充分に行き渡らせるので新陳代謝が活発になり免疫機能も高まる。また肩こりなどの原因となる疲労物質(乳酸など)の血管中の滞りが流れるため、疲れが取れる。
日本の住宅は一般的に断熱性が低く、冬の住宅内の室温は欧米の寒冷地以上に低いため、血行障害が起こりやすい。また、日本人は、もともとの体質と食習慣、運動習慣の少なさ、勤勉ゆえのストレスの高さなどの影響で、特に血行障害が起こりやすいと言われている。そのため、冬だけでなく一年を通して、血行をよくする工夫を体が求めていて、そのような効果が高い浴槽入浴が自然に好まれるのではないだろうか。
都市生活研究所 早川 美穂