キッチンは「主婦の城」といわれることがある。主婦にとっては、自分が中心となって使う場所であり、設備や調理器具類の選択においても主導権を握る場合が多いからだ。また、食事を作って食べる空間は一日のうちで最も長く居る場所である場合も多く、居心地のいい空間であることを望む姿が伺える。
しかし、その城を楽しんで使っている人はそれほど多くない。40代以下の専業主婦の食事作り意識を聞いたアンケートで、食事づくりが楽しいとする人は約4割であった。家族の健康を思い浮かべながら毎日の食卓を考えることはことのほか労力がかかり、楽しいと考えられなくても無理はない。
その一方で、子供が調理に参加することや子供に調理を見せることが、子供の感性育成に効果ありとする声は大きい。つまり、調理という行為が自分にとって楽しいものではないにもかかわらず、子供にとっては能力育成の一助となる大事な行為だと考えているのである。(図参照)
料理という行為は、食材を切ったりにおいをかいだり味見したり火加減を調整したりと、集中力と感覚を研ぎ澄ます行為である。こうした経験を積むうちに五感が鍛えられるということを長年の経験から感じているのであろう。子供が料理に参加することの効果は計り知れない。かつて都市研で行ったキッズクッキング調査では、子供が料理に参加したことが食事中の話題となって家族の会話が楽しくなること、嫌いなものでも自分で作ったものなら食べられるようになること、そして食べ物のありがたみが分かるようになるといった効果も確認されている。
こうした傾向から考えると、今後のキッチン空間は、「主婦の城」から「親子の城」と言われるようになるのではないだろうか。キッチンが家の中心となり、父親も料理に参加するようになることで、料理そのものを家族で楽しむ新たな空間が生まれる可能性が高まっているように感じられる。「親子の城」創出の鍵は、義務意識が植え付けられていない男性であり、男性に休日の料理を委ねてみることなのかもしれない。
荒井 麻紀子