子どもに個室が必要だという意識が近年低下してきている。少子化による「大学全入時代」を迎え、勉強意欲やそのための「子どもの個室」を確保するこだわりが低下したためとの考察が過去の都市生活研究所のコラム(早川美穂『子供の個室』2006年9月19日)に掲載されている。最近ではそれに加えて、家族の繋がりやコミュニケーションを促進する共用空間の充実が求められるようになり、結果として「子どもの個室」に割けるスペースが少なくなっているようにも思える。しかし、自我の確立や自立の訓練に個室が果たす役割は重要だ。
このジレンマを解消する1つの方法として、ライフステージ・成長段階に応じて間取りを変更することが挙げられる。例えば、子どもが小さい時には兄弟共用の大きな部屋で一緒に遊ばせて、思春期を迎えるころに部屋に仕切り壁を作って分割するなどである。大規模なリフォームになればそれなりのコストがかかるが、将来の個室化をあらかじめ想定して建築コストを抑えるデザインが今のトレンドであろう。第2回目を迎えたキッズデザイン賞の受賞作品(建築・空間部門の戸建住宅)の中でも、その傾向が見てとれる。
共通する特徴は家族の結び付きが感じられる空間づくりである。広いつながった空間によって、人の気配が感じられたり、会話が聞こえたりする。分断されがちな1階と2階についても、うまく配置された吹き抜けが空間を共有する役割を担う。また、2階の部屋から外へ出かける時、あるいは帰ってきた時、かならずリビングにある階段を通りぬける。そして、子どもの勉強や家事仕事など個々の活動もリビングや共有スペースのコーナーで行なう。これらが家族のふれあいを自然と増やすという。
一方、ライフステージの変化への対応については、各社で提案が異なる。狭めの共用スペースだったものを寝室と収納スペースとしてだけ使う、つまり、個室ができた後も勉強などはリビング等共用のスペースで行なうもの。また、広めの共用スペースの吹き抜け部分に壁をつけることによって完全な個室にしてしまうもの。そして、成長にあわせて天井高を変えるもの(個室化という意味では変更ではない)。
どんな個室化オプションがよいのだろうか。今後さらに色々なバリエーションが登場してくるかもしれないし、そもそも個室化しないこともオプションの一つであろう。正解は一つではないと思われる。きっと、親の教育方針や子どものタイプなどによっても変わってくるのではないか。自分の子どもにとってどのオプションが最適か?自分の子どものタイプを見極めることが、家を選ぶときにも、必要な時代になりつつあるようだ。悩みは増えるかもしれないが、消費者にとって選択肢が増えることは良いことには間違いない。
【参考】第二回キッズデザイン賞 建築空間デザイン部門 受賞作品ページのURL
http://www.kidsdesignaward.jp/KDA_AWARD_2008/prize6/02/01/