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ごはんとパンと、そして新米

 2011年の家計調査でパンの購入額が米のそれを抜いたことが話題になりましたが、翌2012年は、微差ながら、米(28,730円)がパン(28,246円)を抜き返しました。
 この数年は双方が近接した状態ですが、長い期間で見ると、米の購入額は減少傾向、パンは微増傾向が続いています。今後もそれらが続いたら、2013年は再びパンが米を抜き返し、その差が年々拡大して、米を食べることを中心としてきた私たち日本人の食生活は大きく変わっていってしまうのでしょうか。


全国【年】あたりの支出金額(二人以上の世帯/2000-2012年).jpg

(家計調査 / 総務省)


 でも、実はそうでもなさそうです。


 コンビニエンスストアに初めて「おにぎり」が登場してから40年がたとうとしています。弁当やおにぎりを購入するという消費行動は、生活にすっかり定着しました。言い換えれば、弁当やおにぎりとして、米を炊いた「ごはん」(米飯)を購入することが当たり前になったということです。米を食べるという話をするなら、「ごはん」の状態での購入額もみなければなりません。


 家計調査には「主食的調理食品」という項目があり、購入した「弁当」や「おにぎり」、サンドウィッチや惣菜パンなどの「調理パン」がここに含まれます。「米」と「弁当」や「おにぎり」を合わせたものを「ごはん群」、「パン」と「調理パン」を合わせたものを「パン群」として比べてみましょう。


〔全国〕【年】あたりの支出金額(二人以上の世帯/2000-2012年).jpg

(家計調査 / 総務省)


 「ごはん群」の購入額が「パン群」を大きく上回っていることがわかります。米の購入額が初めてパンに抜かれた2011年でも、ごはん群が44,442円、パン群が32,190円で、約12,000円もの差がありました。このように見てみると、米を食べるために使っている金額はパンを食べるために使っている金額よりもまだまだ大きく、日本人の食生活の基盤が米にあることは変わっていないといってよいでしょう。


 長期の傾向では「ごはん群」は減少、「パン群」は微増ですが、この数年に限ればいずれもほぼ横ばいです。もしかしたら、このあたりが現在の食生活における均衡ゾーンになっているのかもしれません。


 日本人と「米」の関わりは、月あたりの支出金額からも伺うことができます。「米」には10月に大きくはっきりしたピークがあります。その要因は、新米といって間違いないでしょう。早場米の出荷が始まる9月から、全国の米どころの新米が出揃う10月に、突出して「米」が購入されています。


〔全国〕【月】あたりの支出金額(二人以上の世帯/2012年1-12月).jpg

(家計調査 / 総務省)


 旬がわかりにくくなったといわれる昨今、購入額の面で「米」のようにはっきりしたピークがみられるのは、梨や筍といった季節感の強い一部の食材のみです。米は、一年を通して毎日のように食べるものですし、値段も味もほぼ安定しています。いつ食べても、「季節はずれ」と感じることはないでしょう。でも、9月10月の新米の時期になると米の購入額が伸びる、というのは興味深いことです。新米の時期だからといって弁当やおにぎりの購入額に変化はありませんが、米の購入額は急上昇するのです。これは、私たち日本人にとって「米」が特別な存在であり続けていることの表れといえるのではないでしょうか。いつもは弁当やおにぎりを買って食べている人たちも、この時ばかりは新米を買って、ワクワクしながらごはんを炊き、炊きたてをほおばる・・・そんな姿が目に浮かぶようです。


 2011年から日本の人口は減少に転じました。食べる人数が少なくなれば、以前と同じ量の米を消費することは難しいかもしれません。でも、米に親しみ、毎日のようにごはんを食べ、新米を楽しむ、そんな日本人の食生活の根本は、そう簡単に変わることはまだまだなさそうです。


 もうすぐ春、今年の米づくりが始まります。今から新米が楽しみです。

菅原 ひろみ

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