『イクメン』という言葉を耳にしたことがありますか?2010年に流行語大賞でベストテン入りを果たした言葉で、「育児を積極的に率先して行う男性」「育児を楽しんで行う男性」を意味します。2011年には「イクメンの日」<10月19日=10(とう)さん、19(いく)じ>も制定され、イクメン・オブ・ザ・イヤーが発表されるなど、その勢いはとどまるところを知りません。
この『イクメン』という言葉に対して、現在子育て中のパパ・ママや子育て経験者の方々は、どのような受け止め方をされているのでしょうか。都市生活研究所では、お子さんのいる20~69歳の男女を対象として『イクメン』に関する調査を行いました。
本コラムでは、現在8歳以下の小さいお子さんのいる、まさに子育て中の男女(20~49歳)⇒「子育て現役世代」と、子育てが一段落したと思われる、末子が高校卒業以上の男女(50~69歳)⇒「子育てベテラン世代」の比較から、『イクメン』および子育てに関する意識の違いを見ていきたいと思います。
まず、『イクメン』という言葉の受け止め方ですが、子育て現役世代は、男性は「『イクメン』になりたい」、女性は「夫に『イクメン』であって欲しい」と思う割合が子育てベテラン世代よりも高く、『イクメン』という言葉を肯定的に捉えていることがわかります。特に女性の希望は高く、「夫は『イクメン』であってほしい」という女性が8割近くとなっています。
※1 子育て現役世代...一番上のお子さまが8歳以下で、自身の年齢が20~49歳の男女
※2 子育てベテラン世代...一番下のお子さまが高校卒業以上で、自身の年齢が50~69歳の男女
また、子育てベテラン世代では「自分の夫は『イクメン』だった」と思う女性は2割弱であるのに対し、子育て現役世代では半数以上の女性が「自分の夫は『イクメン』だ』と思っており、大きな差が見られます。このように希望だけではなく実際の評価としても、『イクメン』だと妻に認められる夫が増えていることがわかります。
それでは、子育て現役世代と子育てベテラン世代では、夫の育児参加が大きく変化しているのでしょうか。実は、図3の通り、夫婦の育児分担割合にはほとんど差がなく、両世代とも90%以上の家庭において育児の7割以上を妻が行っています。つまり、育児分担割合が飛躍的に変化したわけではないにもかかわらず、妻が夫を『イクメン』であると認識する割合には、大きな違いが現れているのです。
なぜ、妻に『イクメン』と思われる夫が増えているのでしょうか?上記の結果から、そこには実質的な分担状況だけではなく、「気持ち」の問題が関わっているのではないか、という予想が立ちます。
この、育児に関する「気持ち」の問題の、一面を捉えたデータをご紹介します。
図4の通り、夫がイクメンだと思っている女性ほど、「自分が育児をしたときに、夫から感謝の言葉を言われる」割合が高いことがわかります。また同様に、「夫が育児をしたときに、夫に感謝の言葉を言う」割合も、夫がイクメンだと思っている女性ほど高い傾向があります。これらの傾向は、子育て現役世代、子育て一段落世代にかかわらず同様に見られます。
さらに、子育て現役世代は、子育てベテラン世代よりも、「自分が育児をしたときに、夫から感謝の言葉を言われる割合」「夫が育児をしたときに、夫に感謝の言葉を言う割合」ともに高くなっています。ここに、子育て現役世代の女性が「自分の夫は『イクメン』だ」と感じる割合が高い理由のひとつがあるのではないでしょうか。
つまり、「育児をやってくれてありがとう」と言ってくれる夫は、妻に『イクメン』だと思われる傾向が強い、ということであり、育児の大変さを理解し、ねぎらいの言葉をかけることが、妻の夫に対する『イクメン』評価に影響を与えていると考えられます。
子育て現役世代と子育てベテラン世代の意識の差の背景には、男女平等教育など社会状況の変化による、性別役割意識の違いがあると思われます。若い年代ほど、「家庭内のことも男女にかかわりなく行うのが望ましい」という考え方が強いことは、都市生活研究所の研究結果からもわかっており、(都市生活レポート「食・世代 ~食による新しい世代の研究~」参照)、上記のような妻への感謝の言葉が、素直に出てくる男性が多くなっているようです。
女性から見て夫が『イクメン』であるかどうかは、実際にどれだけ育児を行っているかだけではなく、子育てを「自分ごと」として捉えているかどうかが、重要なポイントとなっているのではないでしょうか。