高齢者世帯の8割は持家住まい
下の表は家計を主に支える者の年齢別に、住んでいる住宅の種類を見たものです(住宅・土地統計調査)。当然ですが、年齢が上がるにしたがって持家の割合が増え、高齢者世帯では8割に達しています。このマイホームで老後を過ごそうというのはごく自然なことです。いろいろな調査でも、高齢者予備軍(現在では団塊世代前後の方)の半数弱は、現在の住まいや地域に住み続けることを希望しています。逆に見れば半数の人は何処かに移り住みたいと考えているのですが、年齢が上がる程そのまま住み続ける人が増えていきます。希望はあっても、実際には移り住むのは大変なことです。
では、最も普通のパターンである「今の自宅に住み続ける」上でのポイントは何でしょうか。住宅そのものと地域について考えてみましょう。
小さな改修でも思いもよらない快適性をもたらす
持家であれば住宅改修は自らの意思で出来ることですが、なんとなく億劫で我慢してしまうことが多いものです。しかし、長年高齢者向けの住宅改修に取り組んできた建築家岩瀬昌照氏(SD建築設計事務所)は、「僅か2、3cmの敷居の段差でもこれを取り外すと、こんなに気持ちが楽になるものだとは思わなかったと喜ばれます。今の暮らしに合わせて住まいや住み方を少し工夫することで、安心して豊かな暮らしが出来ると思います」と語っています。
効果的な改修を実現するためには、住み手の要求を正しく理解し、丁寧に相談にのってくれる相手を見つけることが大切です。最近は自治体の窓口でも相談や紹介に対応してくれようになりました。まだ元気なうちから、時間をかけて相談相手を探しておくことが必要です。
自分のまちをよく見て、好きになる
都市研究所が2003年に行った団塊世代調査で、老後の住環境で重視するのは、(1)食料・日用品の店が近い (2)治安が良い (3)介護行政サービスが充実、がベスト3でした。こうした住環境への要求は、住宅と違って自らではどうにもならないように思えますが、個々人の暮らし方で徐々に変わってもいくものです。よく15分生活圏といわれますが、自宅から徒歩で15分から20分程の圏域にあるお店や公共施設、病院などを、どのぐらいご存知ですか。そこに気に入った店、行きつけの店が有るか無いかで第二の人生は大分変わってきます。
ブラジルの一地方都市「クリチバ」を、世界が注目する奇跡の環境都市に変貌させたジャイル・レルネル元市長は、市民にこう呼び掛けます。
「家族で経営している店に行なって買い物をし、サービスを受けてみよう。これは、都市への愛情表現のもう一つの手段である。一番近い停留所からバスに乗ってみよう。・・・・・そして、歩いてみよう。歩道のデザインに注意を向けよう。電柱にも注意を向けてみよう。・・・・・これらをやった君には点数をあげよう。
都市の中に、行きつけのカフェとかバーをもっているかい? また、自分が得意とする待ち合わせ場所をもっているかい?もっていたなら最高だ。・・・・道路に面している店で買い物をしているかい?またまた君は得点した。」(「都市の鍼治療」:丸善)
高齢化社会に向けて、日本でもコンパクト・シティへの転換が叫ばれていますが、自分のまちをよく見つめ、好きになることが、その第一歩ではないでしょうか。
都市生活研究所 鎌田 一夫