今や日本の住宅では「子供部屋」の存在が一般的になった。住宅情報サービスの調査によれば、1980年以降、子供のいる家庭の8割以上が子供部屋を持つようになっている。複数の子供がそれぞれの個室を与えられるケースも少なくない。一戸建てでも集合住宅でも、住宅を新築する際に重視される項目のトップ3には「部屋数」が含まれており、その主な理由は子供の個室の確保と考えられる。
しかしこのところ、子供に個室が必要だという意識は低下してきている。
都市生活研究所が3年ごとに行なっている定点調査によれば、子供に個室が必要と考える人は1996年には半数近かったが、2005年には3人に1人に減少している。なぜだろうか。
一つには、社会状況の変化がある。高度経済成長時代以降、日本人の多くは「有名大学に入学することが一流企業に就職する近道であり、それが一生の安泰を約束する」という学歴神話を信じてきた。そのため親は、受験勉強のための個室を与えることが子供の幸せにつながると認識した。しかしバブル崩壊以降、一流企業が必ずしも安泰でないことがわかり、また、大学の1学年の定員を受験生の人数が下回る「大学全入時代」も間近に迫った。勉強の目的を受験に置いてきた人々の、勉強意欲やそのための個室確保へのこだわりが低下しとしても不思議はない。日本青少年研究所が2002年に行った調査では、学校以外での勉強を「ほとんどしない」と回答した高校生が51%となっており、26%であった約20年前に比べて倍増している。
しかし、子供の個室の価値は、勉強部屋としてだけではないはずである。子供の心の成長には、誰からも邪魔されずにじっくり考え事をしたり空想にふけるなど、自分自身と対話をする場が大切だと言われている。
子供が個室を持つと、反って非行や家庭内暴力、引きこもりの温床になるという懸念もあるが、これに対しては、個室の存在よりも、子供を個室に追い込んでしまうような家庭内コミュニケーション不足にこそ問題があるというのが専門家の見解だ。
米国では、生まれてまもなく個室が与えられるが、これは自我の確立や自立の訓練に不可欠と捉えられている。自分の部屋を片付け、自分らしく飾り、メンテナンスすることが自立へのステップという認識である。日本でも、子供の個室のあり方を今一度考え直すべきかもしれない。
都市生活研究所 早川 美穂