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二つの動線経路を持った住宅の魅力
―小規模でもそれを実現していた初期の集合住宅―

 "不意のお客があった時、キッチンやバスルームにいる家族と顔を合わせずに済ませたい" "汚れ物を、きれいな部屋を通らずに処理したい"こうしたニーズは日常の生活で誰もが感じていることではないでしょうか。メインの廊下の他に、裏の経路があるとこのニーズを満たしてくれます。とりわけ、玄関から各居室やキッチン、バスルームへは二つの経路(きちっとした廊下でなくても)があると何かと便利です。
 今のマンションでは、玄関からリビングダイニングまでの廊下に個室、バスルーム、キッチンの入り口があり、裏の経路がないのが大半です。一本の廊下に集約することで、床面積の効率的な利用を図っています。ところが、今の住宅の半分以下の規模しかなかった戦前や戦後初期の集合住宅で、2Wayの経路を上手に作り出している例があります。

●同潤会代官山アパートメント●
 ひとつは同潤会代官山アパートメントの3階建て集合住宅です。同潤会は関東大震災の義捐金を元に被災者救済のために住宅供給などを行った財団で、東京・横浜に1万2千戸の住宅を建設しています。木造住宅の他に都市の不燃化を目的に、当時としては最新の鉄筋コンクリートの集合住宅も建設しており、代官山アパートメントはその代表的なもので、1927年の建設です。
 6畳と4畳半の二部屋に台所、便所というささやかな住宅ですが(風呂は団地共同浴場)、玄関から二つの部屋にそれぞれ入り口があります。二部屋を仕切っている襖を閉めて単独で使う場合には、他の部屋を通らずに台所、便所へ行けるようになっています。

●公団テラスハウス●
 もうひとつの例は住宅公団(UR都市機構の前身)が1950年代後半に建設したテラスハウス(2階建ての長屋形式の住宅)です。これも、2階に6畳と4畳半の居室、1階にダイニングキッチンと便所という小住宅ですが、風呂が付いています。その風呂は玄関脇にあります。玄関からは廊下・階段への経路の他に風呂から台所へという経路が取れるようになっています。


 この玄関脇の風呂は泥付の野菜を洗ったり、汚れた子供の足を洗ったりするのに大変便利だった、と古くからお住まいの方は話しています。前述の代官山アパートも台所はコンクリートスラブのままで、土間の様になっています。伝統的な住まいでは、農家はもちろん町家でも土間があって、ユーティテイ空間として活用されてきました。代官山アパートや公団テラスハウスでは、伝統的な住まいから近代住宅へ移行する際の工夫がいろいろ見られ、今でも教えられることが多くあります。

代官山をはじめ同潤会の住宅は殆ど建替えられ、公団のテラスハウスも建替えが進んでいますが、UR都市機構の都市住宅技術研究所(八王子市)ではこうした住宅の内部を復元して展示しています。一般に公開しているので、ご覧になってはいかがでしょう。(Tel 0426-44-3751)


同潤会代官山アパートメントのプラン
同潤会代官山アパートメントのプラン
公団テラスハウスのプラン
公団テラスハウスのプラン


鎌田 一夫

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