先日、イタリアに行く機会があり、その中で、"水の都"と呼ばれる「ベネチア」を訪れました。ベネチアは、イタリア北東部、イタリア半島の付け根に位置し、アドリア海に面した浅い海の「ラグーナ(潟)」の上に樫などの木を打ちつけ、人工的に造り上げた海上都市です。海抜は1mに満たず、運河が網目のように張り巡らされ、そこにゴンドラが行きかう様子は、まさに中世の佇まいをそのままに残しています。
こうした立地条件や、観光都市ということもあり、自動車の乗り入れは規制されているので、街中の移動は、ヴァポレットと呼ばれる船や、もっぱら徒歩となります。今の時期のベネチアは、ちょうどバカンスの時期ということもあり、多くの観光客でごったがえしており、その活気に圧倒されます。
この美しい都市が今、「アクアアルタ」と呼ばれる高潮に頻繁に襲われています。大型のアクアアルタは、1920年代には年間にわずか数回程度でしたが、近年には80回以上にも及んでいるようです。その原因は、地球温暖化による海面の上昇と地盤沈下にあります。近い将来、ベネチアが現在の姿を留めていられなくなると言われているのはこのためです。
美しい建築物や絵画、ゴンドラが行き交う優雅な街並みの中にいると、こうしたことがうそのように感じられますが、地球温暖化による弊害は着実に私たちの近くに押し寄せているのです(図1)。
(1961~1990との差)
※1961~1990年の平均を0.0mmとして、その差をとっています。
※なめらかな黒の曲線は、10年ごとの平均値を示しています。
※丸印は、各年の値を示しています。
※青色の影の部分は、すでに知られている不確実性を包括的に分析した結果から推定される、不確実性の幅を示しています。
今年の夏、イタリアは例年以上の猛暑に襲われています。南部のリゾート地ペスチアでは山火事が発生し、死者もでました。
さらに、欧州全体に目を向けてみると様々な異常気象が発生しています。英国南部では豪雨により、60年ぶりとされる大洪水が発生し、約35万人が水の供給を受けられない事態となっています。ルーマニアでは熱波で気温が過去最高の44℃に達し、10数名が死亡し、ハンガリーでは猛暑による死者が多数でているという報道もされています。さらに、マケドニア、アルバニア、ギリシャなどでは冷房多用によるとみられる電力需要の急増で停電が広がっているようです。
こうしたことも、地球温暖化の問題が影響しているところが多分にあると思います。
こうした事態を打開するためには、抜本的な対策が必要になります。抜本的といっても大きなことをやるということではなく、私たち、一人一人が常日頃から少しずつ、努力していくことが大切だと考えています。例えば、冷房の設定温度を今までより1℃高くして過ごすだけでも、積もり積もればCO2削減に大きな効果となり、地球温暖化防止に役立つというように、少し遠くに思われるところからの試みの積み重ねが大切なのではないでしょうか。
自動車の走らない「ベネチア」が、CO2排出の増大に起因する地球温暖化によってその存在が危ぶまれる一種、皮肉な現状を見ながら、自らの行動の軽率さと重要さを再認識させられています。
『ベネチア』の写真を観ながら
2007年8月
稲垣 勝之