天然ガス自動車(Natural Gas Vehicle)は、ガソリン車と比較してCO2排出量の少ない環境性の高い自動車である。また最近のガソリン価格高騰から、ランニングコストの優位性もガソリン車と比較してより一層際立ってきた。
それにも関わらず、日本においてNGVはマイカーとしてはほとんど普及していない。もっとも大きな阻害要因は燃料であるガスの供給インフラが整っていないことである。NGVの燃料ガスボンベへガスを高圧充填するための設備が必要で、この設備を備えたNGV用スタンド(エコステーション)は全国に約300ヶ所しかないのである。
●技術・制度は整いつつある
ところが、こういった状況をブレークスルーしそうなエネルギー・ソリューションが最近登場した。一昨年2005年、米国カリフォルニアでNGV用の家庭用充填機(HRA:Home Refueling Appliance)"Phill(フィル)"が販売開始されたのである。
アメリカホンダが資本参加するフューエルメーカー社(カナダ・トロント)が開発したもので、"ホンダ・シビックGX"とセットで販売促進されている。日本でも大阪にて実験住宅に設置されフィールド試験が実施されている。生活者がマイホームでマイカーへ燃料をセルフ補給するための技術や制度は、徐々にではあるが、整いつつある。
●時代が変化し生活者のニーズにもマッチ
公共交通機関の発達した都心と異なり、郊外では自動車は今や生活必需品である。ファミリーで旅行・ドライブするための大型のマイカー以外に、日々の通勤・通学に使う「足」としてのパーソナルな車を合わせてもつ家庭も増えている。こういったパーソナルな車では、NGVが提供できる価値:経済性や環境性が、より重視されるのではないだろうか。
またスタンドのセルフ化が進んできており、一般ドライバーにとってセルフで給油することに抵抗がなくなりつつある。逆にマイホーム充填によって、給油のためにわざわざスタンドへ出かけたり遠回りしたりする必要がなくなることから、トータルの利便性はかえって高まるのではないだろうか。スタンドと家とを往復するための時間だけでなく、燃料代も削減できる。
●マイホーム充填は電力の負荷平準化に資する
マイホーム充填の課題は、充填に時間がかかることである。Phillの場合、1時間でガソリン約1.5リッター分のガスしか車のタンクへ充填できない。タンクにガスがどのくらい残っているかによって充填時間は異なるが、だいたい4時間から12時間といわれている。したがって、車が自宅のガレージに駐車している夜間に充填される(無人・自動)のが都合がよい。
こういったことから、割安な深夜電力を利用して経済メリットにつなげることができる。消費電力は定格で0.8kW程度であるが、塵も積もれば山となる。電力会社の経営課題である負荷平準化とのマッチングもよく、電力業界と都市ガス業界が協力して生活者へ提供できるソリューションになりうるのではないか。今後の動向に目が離せない!
横井 泰治