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キッズデザインの2つの視点 ~子どもたちの「安全・安心」と「健やかな成長発達」の関係~

 有志の企業・団体が集い、経済産業省などとの連携のもと、2006年5月にキッズデザイン協議会が発足した。平成20年2月29日時点で、発足時の2倍を超える74もの企業・団体等が参画している。キッズデザイン協議会が活動スローガンに掲げているものは2つ。1つは子どもたちの「安全・安心」。もう1つは子どもたちの「健やかな成長発達」である。実はこの2つ、相互に密接に関連するものである。

 まず、子どもたちの「安全・安心」に取り組むことについては、近年改めて顕在化している「子どもの事故」への対応という面がある。回転ドアでの挟まれ事故、プールでの溺死事故、シュレッダーでの指の切断など、過去に何度も繰り返されながらも、大きな社会問題になるまで取り組みがなされてこなかったものへの対応である。

 なぜ繰り返し事故が起きていたのに問題視されなかったのか。それは、「子どもの事故は親の責任」という考え方が定着しているからであろう。親が目を離したちょっとの間に事故にあったというケースは極めて多い。そして、親は幼い子どもが事故にあったことを「自分の責任」と思い、声を上げない。こうして、製品メーカーにも事故が起こっていることが伝わらないのである。

 キッズデザイン協議会では、こういった今まで製品メーカーへはほとんどあがってこなかった事故の情報や事故からの示唆を、事故情報を収集・分析・研究する団体や病院との連携により獲得して製品メーカーへ周知し、製品や社会インフラの改善につなげたいと考えている。

 しかし、子どもたちの「安全・安心」への過度な配慮は、逆に子どもたちの危険回避能力の低下を招くとの議論がある。安全が担保された当該製品を使用している場合にはよいが、その他の安全に配慮されていない製品を使う機会もあるであろう。そういった場合には、かえって危険ではないかとの考えである。このことを担保するために、キッズデザイン協議会では、もう1つのスローガンである「健やかな成長発達」を謳っているのである。

 欧米の研究事例から興味深い事実を紹介したい。安全性を高めるべく改善した当該製品を使った場合にも、必ずしも事故件数が減少するとは限らないという事実である。上り棒やジャングルジム等の遊具からの転落事故を防ぐ方法として、遊具設置面を硬いアスファルト・コンクリートから柔らかいバークやラバーへ変更する介入方法がある。欧米では、このタイプの介入の効果を検証したいくつかの調査研究がある。そして、それらの結果については、必ずしも介入後に事故件数が減ったものばかりではないのである。

 遊具が安全になったにもかかわらず、なぜ事故件数は増加したのか?理由の一つには、利用者数や一人あたりの利用頻度が増加したり、あるいは遊び方がチャレンジングなったことがあるのではないかと論文中考察には述べられている。多くの子どもが遊びでチャレンジすること、それ自体は誰も反対しないであろう。「健やかな成長発達」に資するともいえよう。しかし目的を「安全・安心」、目標を事故件数の減少とした場合には、この介入は負の効果を及ぼしたと評価されてしまう。

 以上、「安全・安心」と「健やかな成長発達」との関係は極めて複雑である。中長期的にはトレードオフがあったり、短期的にでも負の相関を示すケースすらあることを述べた。このように相矛盾する2つのスローガンを掲げて、どのようにバランスをとるのか、新たな考え方を示すのか、キッズデザイン協議会はこの難しい問題に果敢にチャレンジしてゆく。

横井 泰治

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