大量生産・大量消費社会において、私たちが商品の価値を決める際に、「性能」、「信頼性」と「価格」は重要な要素となっています。身の回りにものが溢れた今日、一方で、本当に必要なものを末長く使っていこうとするユーザーが増えてきたことも事実です。このようなユーザーは、ものに対して何を求めているのでしょうか。
最近、「感性」という価値基準が、日本のものづくりの新たな方向性として取り上げられるようになって来ました。感性とは、そのものの背景にあるストーリーや文化、美しさ、発想の転換や独自技術、五感に訴えるコンセプトなどが、ユーザーにとって、「楽しい」とか「心地よい」、「安心感」として共感できるときに価値を持ちます。従来までの「性能」、「信頼性」、「価格」による『ものの充実感』に対して、「感性」は『こころの充足感』を満たすファクターであると考えられます。しかしながら、「感性」は、人それぞれに受けとめ方が異なるため、ひと目見ただけでは、そのメッセージを感じ取ることが難しいことも事実です。
そこで今回は、キッズデザイン賞の受賞作品を例に、感性について触れてみます。
下の写真の受賞作品は、ポリエチレン製のブロック玩具です。キッズデザイン3つの理念の「子どもたちの創造と未来を拓くデザイン」面で優れているとして評価されました。感性面では、視覚や触覚の感覚が、やさしい色使いで柔らかい手触りのため心地よさを感じさせてくれます。子どもたちは、柔らかい素材のため、つないでいくうちに新たな発見があり、曲線であらわすカーブが自由な発想を引き起こします。柔軟な思考力を培うことにより創造性が啓発されることから、感性にも秀でた作品といえます。
ポリエチレン製のブロック玩具
下の写真は、国産天然木からつくった離乳食用木製さじです。キッズデザインの3つの理念では、「子どもたちを産み育てやすいデザイン」が評価されました。感性面では、角がなく、赤ちゃんの小さな口に無理なく収まり、持ち手側のサイズも工夫してあるため、親子で共に触れていて心地よい感触を与えてくれます。また、赤ちゃんの名前を入れることもでき、世界でたった一つの食器にもなります。海外では昔から、赤ちゃんの出産祝いに、銀のスプーンを贈るといいますが、木製のさじは、日本古来の木の文化に通じるところがあります。
国産天然木からつくった離乳食用木製さじ
下の写真の不思議なカーブの哺乳びんは、3つの理念の「子どもたちを産み育てやすいデザイン」が評価されました。頭を起こした状態でミルクを飲ませやすいデザインになっています。アメリカの小児科医が考案したもので、当初は、プラスチック製のものしかありませんでしたが、日本の高度なガラス職人の技術によって、ガラス製のものができました。感性面では、母乳の授乳姿勢と同じことから親子共に安心感を与えてくれます。商品の背景には、容器そのもの形を変えてしまう、大胆な発想の転換と日本のガラス工芸技術がマッチして出来上がった、開発のストーリーが存在します。
不思議なカーブの哺乳びん
ここで取り上げた3つの作品をはじめ、経済産業省が第4の価値軸として提案する、「感性価値創造イニシアティブ」の中の、感性価値創造ミュージアムで取り上げられた商品で、キッズデザイン賞受賞作品を見てみると、どれも共通して、「丸み(曲線)」を帯びていて「暖かい」感じがするかと思います。
世界でも日本人が優れていると考えられている「感性」。これをデザインのチカラにより商品に付加価値を与えることにより、これからのものづくりの新たな体系ができあがってくると考えられます。
【参考】
ポリエチレン製ブロック玩具
離乳食用木製さじ
不思議なカーブの哺乳びん